レンの道   (文章:管理オーバル魔ペットJoya)     ファルコムのゲーム・英雄伝説『空の軌跡』シリーズのバレを含みますのでご注意ください。   特に、今回は『零の軌跡』プレイ後の感想をまとめたものなので、『零の軌跡』の大きなバレがあります。 2011.2.6    A 大切な何か
 レンが登場して、声が無いことが判明してからは、音声をOFFにしてゲームを進めました。  レンの声が無いのに、他の人の声を聞きながらゲームをするのは、私には大変な苦痛なのです。  結局最後までOFFのままだったので、それ以降に登場した人の声は聞いていません。  昔の、声が無いRPGだと考えてプレイすれば、普通に感動できる良い物語でした。  ロイドたちの特務支援の仕事の合間、エステルとヨシュアの動向が気になって何度か見に行きました。  レンが人形工房にいることをつきとめていたり、いろいろと頑張って探している姿があって嬉しかった。  その中で、2人がハロルドに出会っていた場面は印象的でした。  ヨシュアは落ち着いて世間話をしていましたが、エステルはじっと黙って、怒ったような顔でハロルドを見ていました。  そうだよ、そうなるよねエステル…と思わず画面に向かって声をかけました。  私見ですがここでエステルは「こいつマジ殴りてぇ」と思っていたに違いないのです。超・共感でした。  それにしてもここでエステルが「あまりにあの人形にそっくり」と感想を述べていたことも印象的です。  あの人形とは、レンがリベールで行動していた時に両親を演じさせていた人形のことです。  そこまでそっくりに作られていたということは…  忘れたくとも忘れられない、心のどこかで愛情を求めるレンの複雑な思いがあったのでしょう。  そして、『空の軌跡』SCで執行者として名乗った際、そのそっくりな両親の人形を屋上から叩き落とす…  自分の中の、愛情を求める心を否定し、思い切り吹っ切るためにそうしたのか、と今では思えます。  さて、クロスベル70年祭で事件は起きます。   祭ねぇ? けっ、ふざけんじゃねぇや。   クロスベルなんてなぁ、レンちゃんの不幸の原因つくった最悪の魔都だろうが。ほんと治安悪い。   ばかさわぎしてんじゃないよ。だれが楽しむか、こんな祭。   何? コリン? え? レンの弟? 認めませんよそんなの。   血が繋がってるからってなんだ。知ったことじゃない。勝手に「幸せ」に生きてれば?   …行方不明? いよいよどうしようもない両親だ。   レンを身売りした過去を持ち、今度は弟を不注意から失うのか。救いがたい。   過ちを繰り返して、思い知ればいいんじゃないの?    本当にそう思っていました。この事件を解決するまでは。  特務支援課がバラバラになって探すことになり、ロイドは偶然、レンと裏通りで会う。  レンのセリフはいちいち「レディ」していて、可愛くて大変良い。  コリンの写真を見せた時のレンの表情は、見えなかった。  戸惑うように、「…こんな子、知らないわ」と言った。  胸が締め付けられました。…だれもレンを守る人がいない。  衝撃を受けているレンを、今、だれかがしっかり抱きとめてあげなくてはいけないのに。  レンは立ち去るのかと思いきや、「一緒に探してあげる」と言う。  知らない子と割り切っても、やはり気になったのか。  どんな結果になっても「見届ける」だけ…と、思っていたようです。この時点では。  …レンと2人で行動することになったロイドがうらやましかった…  しかもロイドが携帯端末で通信する時、音声を聞こうと顔を近づけてくる描写。  うらやましすぎました。  ロイドたちも頑張ってましたが、最後はレンが天才ぶりを発揮してコリンの居場所をつきとめます。  独りで山道を歩いているであろうコリン。  その現状把握のため、バスの運転手に「悲鳴や何か転がり落ちる音」が無かったか、と聞くレン。  ロイドたちはその冷静で直接的すぎる状況分析に絶句。  でもレンがコリンを本気で探そうとしているということだ、と私には感じられました。  魔獣の群れに襲われそうになっているコリンを発見し、思わず大鎌で魔獣を攻撃するレン。  冷酷な執行者としての顔はそこにはなく…  「弟」を助けようと必死になっているレンがそこにいました。  この時点で私はもう泣いています。  壊れていこうとする自分の心をなんとか保ってきたレン。  人との繋がりを求めながらも、冷徹な執行者を演じて殺伐とした世界を生きてくるしかなかったレン。  仮面を幾重にもかぶり、体の周りを見えない壁で塗り固め、気丈に歩んできたレンが。  そのレンが、とっさに、弟だけど「知らない子」のコリンを、救う。  自分は得られなかった「幸せ」を獲得している、無垢な子。  自分の得られなかった愛情をその身いっぱいに受けている、普通の子。  見たくない、知りたくない、関係ない所で生きていればそれでいい、そんな相手。  レンが本当に強い心を持っているから、いや、持たざるを得なかったから、許せている。  そうでなければ、深い憎しみをもって八つ裂きにしてやりたいと思ってもおかしくない「弟」。  そんなコリンを、運命を見届けるだけのつもりだったその相手を、心のままに助けた。  命を救った。  その行動を、姉だから当たり前などという言葉で片づける人がいるだろうか?  全く、ぜんぜん、当たり前ではありません。  無意識だったでしょう。何も考えずに動いたでしょう。  それでも、まとわりつく全ての闇を振り払って、レンは大鎌を出したんです。  レンの魂が、闇を外側に纏わされているだけで、その中心は強く優しい光に満ちていることが分かります。  それから腕の中のコリンが泣き出したので、レンは困ってしまいました。  『空の軌跡』3rdで、ティータが泣き始めておろおろしていたレンを思い出しました。  自分の優しい心、泣いている相手をいたわろうとする自然な心に気づき…  でもそれが何なのかよく分からなくて、優しさを表現できなくて、戸惑ってしまうのかもしれません。  レンは「見ているだけのつもりだったのに、バカみたい」という意味のことを言い、泣き顔になってきました。  更に、ここでロイドのトドメの一言。事情は知らないが君は君自身で大切なものを守った…という。  そんなことを言われたらレンが泣いてしまうじゃないか…  しかし「バカみたい」という言葉を優しく否定してくれたのかな、とも思いました。  ロイドの言葉を聞いて、レンちゃんもコリンとそろって大泣きを始めてしまいました。  そして画面ごしにそれを見ているプレイヤーの私も涙ぼろぼろでした。  それから支援課に戻り、ロイドの部屋のベッドにコリンを寝かせ…  そこでロイドはレンにいろいろ語りかけ…レンの今の状態を、比喩表現を使ってほぼ言い当てました。  「帰り道を分かってはいるのに、立ちふさがる岩だらけで帰れない」  ロイドという男は一体何者か、と思いました。直感も働くし言葉も超・的確…すごすぎです。  ここでハロルド夫妻がコリンを引き取りにやってきます。  ロイドは何かを感じ取ったか、戸惑いの表情を見せるレンを、クローゼットへ。  ロイドの申し出に素直に従ってクローゼットに入っていくレンがとてもいじらしかった…。  ここでハロルド夫妻の語ったことが、重要でした。  レンちゃんを「失った」と思っている…その経緯の真実が語られました。  これまで、私を含むプレイヤーたちもエステルたちも…  この両親は財政難から逃れるために実の娘のレンを身売りした最悪の夫妻…だ、と思っていたのです。  しかし、真相は… 両親が直接レンを「身売り」したのではなかった。  両親は債務を抱え危険な逃亡の最中だったので…レンを知人に「預けた」のです。  幼いレンは、状況を理解してはいなかったでしょう。  8年前…とのことですから…  数年後、なんとか返済をし、経済的に立ち直った夫妻は、レンを引き取りに向かった。  しかし、その知人宅は、焼け落ちていた。強盗団の仕業らしい…  家にいた者は全員死亡…とされた。  その後のことは…前述「過酷な運命に翻弄されたレン」の通りです。  ハロルド夫妻が帰った後、クローゼットから出てきたレンは…涙を隠すことなく、泣いていました。  ぽろぽろ、大粒の涙をこぼしていました。気丈な筈の彼女が。  常にクールを装って隙を見せない筈の彼女が。    …自分の「帰り道」に立ちふさがる岩をひとつ取り除いてくれたことにお礼まで言って。  そうしてレンは立ち去りました。  「いらない子」と思われていた訳では、なかった。  「あんなことになってしまった」というのも、忌まわしい過去と思われている訳では、なかった。  「にせもの」と断じていた両親が、本当は、自分をずっと愛していてくれたことが…分かった。  なんとも… なんとも言えない、ほんのりあたたまるけれども、とても悲しい…悲しい話です。  すーっと、胸のつかえがおりていくのは分かりました。  しかし、両親を完全に許す気には、やはりなれませんでした。  不幸な偶然が重なった…とは言え、不甲斐なかったことは確か。  ハロルドの弁の通り、「いくら大変でも自分たちのもとにおいておけば…」です。  私はただただ、これまで闇に侵食されそうな心を必死に守ってきたレンのことがいじらしく。  レンのことがますます愛おしく、守ってやらなければならないのだという思いが更に強く。  心の中で大きな闇の塊が溶けて流れたことは、良かった…と言いたいけれども、言葉にするのは憚られ…  なんと言っていいか分からない… せつない涙が溢れました。  レンが立ち去った直後、エステルたち登場。なんというニアミス。  しかしここでロイドによって、エステルたちにも全てが語られることになりました。  エステルの言葉によれば、「つらくて、悲しくて、優しい真実」。  ほんとうにそんな感じがします。さすがレンのことを強く思い続けている人です。   レンを思うエステルの様子がまた泣けました。  胸のつかえがおりて、泣き崩れる様子。  急に元気になって、レンを捕まえる決意を新たにする様子。  そんなエステルを穏やかに見守り、レンのことを語るヨシュアも…  レンがコリンを助けてからずっと泣きっぱなしなので、どこまで泣かせる気なんだと思わず呟いた。    レンの心には一筋の光明が差しました。しかし…まだまだ、彼女は深い深い闇の中にいます。  ここからいよいよ本当にエステルたちの出番でしょう。  レンの悲しみを、そのアツすぎるほどの愛情で包んで溶かして…  本当の家族になってあげてほしい。心からそう願い、この日は電源を切りました。  

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