レンの道   (文章:管理オーバル魔ペットJoya)

    ファルコムのゲーム・英雄伝説『空の軌跡』シリーズのバレを含みますのでご注意ください。( 2010.8.13 作成 10.17 微修正 )
    また、『零の軌跡』クリア後に、新たに判明した事実に基づいて、少々書き加えました。( 2010.10.25 ) さらに加えました。( 2011.6.28 )




     1 過酷な運命に翻弄されたレン



 レンは謎の結社「身喰らう蛇」所属の執行者として登場しました。この結社、目的のためには手段を選びませんから、世間的に「悪」でしょう。

 しかし、レンという年端もいかぬ女の子は、果たして「悪」でしょうか?


 レンはもっと幼い頃…まだ知識も無く、世の中の道理など何も分からない頃に、実の両親によって怪しい犯罪組織に「身売り」されました。

   『零の軌跡』では、新たな事実が判明しました。
   上記の犯罪組織は、女神エイドスを敵視し人体実験を繰り返す怪しい教団の「ロッジ」の1つで、他のロッジと比べても特異な場所だったこと。
   また、実はレンは両親によって利用され売られたのではなく、両親が生活をたて直す間に預けていた家から拉致されたのだということ。
   両親に関するその真実は、『零の軌跡』終了直後は「レンが幼すぎたために記憶に残っていなかったのだろう」と単純に思いましたが…
   後から良く考えて、もう少し複雑なのではないかと思いました。これについて詳しくは、
[ 5 レンと両親とパテル=マテル ] にて。
   
 そのいかがわしい場所は「楽園」と呼ばれ、頭の腐った変態金持ちどもが「客」としてやって来ます。

 そして幼い子に、「客」の淫猥な趣味を強要したり暴行を加えたりする。そんな非道い場所でした。

 …このように書いていると、怒りと悲しみで胸が痛みます。「両親」も「楽園」の経営者も「客」も皆、許せません。

   『零の軌跡』プレイ後は、両親に対する怒りは減りましたが、消えてはいません。両親が不甲斐なかったことに変わりはないので。

 ゲームの登場人物に何もそこまで…と考える人もいるかもしれません。ですが私はどうしても怒りに震えます。小説や漫画や映画でも同じです。

 逆に、何も感じない人の心が理解できなかったりします。

 そこまで考えるなら、このようなことをホームページに書くというのは、レンという人物の傷を抉ることになるのではないか?

 書かないほうがいいのではないか? という疑問も湧いてきます。ただ、レンという人物に真剣に向き合うには書くしかない…と判断しました。


 さて、レンはその「楽園」で、何も分からぬまま淫らな「仕事」をさせられ続けていました。

 『空の軌跡the3rd』パソコン版の「星の扉15」には、その頃のレンの精神世界が描かれています。

 PSP版ではその辺りはカットされています。

 ただPSPでも、レンがどこかに売られ何か非道い目にあってきたのだろうということは言葉から分かるようにはなっています。

 この描写の仕方や、カットするしないについては人それぞれ意見があるかと思います。

 が、私は描写するかしないかという問題ではなく、受け止める側の問題だと思っています。これについて詳しくは後述します。


 the3rdパソコン版で描かれたレンの精神世界は、見るなら覚悟して見ることです。

 そして決して読み飛ばすことなく、一言一言真剣に読むことです。

 レンは…たぶん無意識に、自分の幼い心を守るために、自分の中にたくさんの別人格を作りました。

  (これは、『零の軌跡』で登場した黒幕の話によると、同じ場所にいた子どもたちの人格を「とりこんだ」のだそうです。)

 別人格たちが「客」たちに非道いことをされても、それは「自分ではない」。

 そうして、本当は記憶に刻まれている傷なのに、それを自覚しないで済んでいたのです。

 しかし、次々に刻まれる深い心の傷は、別人格たちをどんどん破壊していきました。

 あるいは、「耐えきれない」とどこかで悟り、レンが自ら自分の中で葬っていったのかも知れません。

 最後に残った別人格は、「クロス」と名付けられていました。

 クロスは最後までレンを守るために作られた心の壁、救ってくれる者のいない中でレン自身が生み出した騎士でした。

 しかしついにクロスも消滅する時が来ました。しかも早く消滅させてほしかった、という意味の恨み言まで言って。

 レンはレン自身の生み出した別人格に痛みを全て任せたことで、別人格から恨まれてしまったのです。

 そしてレンは心を守る壁を全て取り払われてしまい、「客」どもの欲望に、無防備のまま晒されることになったのです。

 …それでも心が壊れなかったのは、レンの類い希なる「環境適応」能力のためだと説明されています。

 ですが、心が壊れるのはある意味、自己防衛です。あまりに強いショックを避けるために本能的に感覚を閉じることでしょう。

 壊れずに全て認識してしまうということは、心の「痛み」を、限界を超えて感じてしまうということでもあると思います。

 だからレンは「痛み」に対して敏感になり、「痛い」ことをしてくる人が嫌いになりました…。


 レンの別人格が全て消滅し、レンが想像を絶する「痛み」に責め苛まれていた頃、「身喰らう蛇」が登場します。

 結社「身喰らう蛇」は、怪しい犯罪組織を潰しては、淘汰、統合し、兵力として吸収していたようです。その一環でした。

 レンは、「身喰らう蛇」の執行者“剣帝”レーヴェ(レオンハルト)と“漆黒の牙”ヨシュアに発見され救出されました。

 レンの体には、無数の「十字傷(クロス)」がありました。

 レーヴェは、自分を保つために自分でつけたものだろう、と瞬時に判断していました。

 ヨシュアは、こんな非道い状態でも人は生きていられるものなのかという意味のことを言いました。

 察するに、レンの表情も状態も、それほどに惨い、痛ましいものだったのでしょう。

 そしてヨシュアは「この子の生きている姿が見たい」から、結社で引き取れないだろうかと提案しました。

 これがレンの運命を大きく変えました。ここで2人に発見されなければ、救いが無いままの一生だったかも知れません。


 結社に来てからのレンは、天才ぶりを発揮しました。レーヴェやヨシュアに教えられる戦闘術などを次々に吸収しました。

 レンは強い、と言われ、「自分は強いんだ」と認識し、容赦のない「執行者」としての人格を形成していくことになります。

 この育て方は正しかったのか? という疑問に対しては、私は、答える必要が無いと思っています。

 あえてどちらかに決めるなら、「正しかった」でしょう。レンの「生きる姿」を見るためには。

 心に刻まれた深い傷を蹴散らし、迸る怒りや憎しみや何か分からないエネルギーを発散させる形で、生きようとさせたのだと思います。

 そうでなければ、心を閉ざし、目も耳も閉ざし、口も閉ざし、ひたすら暗く、沈み込む少女になっていたかも知れません。

 また、レーヴェやヨシュアは戦闘術を教えるだけでなく、きちんと人間としてあたたかみをもってレンに接していたでしょう。

 それはレンが、根っこにある優しさ、人との繋がりを求める心を失わなかったことからも分かります。

 「楽園」での記憶のことを考えれば、自分より年上の者、特に「男」などは、化け物にしか見えなかった筈です。

 それを、恐怖せずに会話したり、冷静な目で見られるようになっているのは、レーヴェやヨシュアのお陰なのではないでしょうか。

 そう考えると、身喰らう蛇、レーヴェやヨシュアに救い出されたことは、レンにとって本当に良かったのだと思えます。

 もちろん、もともとレンが身売りされなければ一番良かったのですが、せめてもの救いということです。


 レンは、結社の一員として活動する今でも、自分がどのようなことをされてきたのか、100%は理解していない節があります。

 それは深く、限りなく痛い、心に刻まれた傷ですが、それだけに、ただただ「痛み」だけを激しく感じていただけのようにも思えます。

 天才とは言え、年齢を重ねなければ認識できないこともあるでしょうし、または「認識したくない」本能が働いているかも知れません。

 それを思うと、また胸が締め付けられるように苦しくなります。

 今後、成長するにつれて、自分がされてきた非道いことを「再認識」し、より深く理解していってしまうのではないかと。

 そうすると、レンは、何度も何度も、傷を抉られることになります。

 だれか、あたたかく、優しい人間が、側にいてあげなければならないと思います。


 レンにとっては、ただ世界が回っていて、何事も自分の思い通りにはならず、いわれのない手酷い仕打ちを受けてきました。

 レンが大鎌を得物にし、小さな死神のような雰囲気となったのには、様々な意味がある気がします。

 だれかがその武器を奨めたのだとしたら、そこにはこんな思いがあるのではないかと勝手に推察するのです。

 「お前を過酷な運命に陥れた世界を、大人達を、断罪し殲滅する死神となるがいい。」


 レンを最初に“殲滅天使”と呼んだのは誰でしょうか。

 品がなくて好きじゃないけどそう呼ばれている、という意味のことをレンは言っていました。

 そうすると、だれかが上述のような思いを込めて考えた二つ名なのではないかと推測されます。

 そして、「好きじゃないけど」、なんとなく自分のために考えてくれたことを察して、レン自身もその二つ名を使用しているのではないかと。


 ずっと“殲滅天使”として生きてほしくはない、あたたかさで包んであげたいと考えたのは、元気娘のエステルです。

 彼女はレンの深い傷を知り、戸惑いますが、それでも思いを伝えようと必死です。レンを家族にしたいと考えたのです。

 前向き父娘カシウスとエステルによって闇から抜けたヨシュアと共に。ヨシュアもレンを救い出した経緯があり、思いは強いでしょう。

 2人を是非応援したい、エステルやヨシュアの前でまだ素直になれないレンの心をなんとか解きほぐしてほしいと願っていました。

   詳しい説明は後述しますが、『零の軌跡』でついにそのエステルとヨシュアの思いは達成されました。本当に良かったと思います。


 エステルは、レンは悪い子じゃないと言います。執行者として、世界を転覆させる計画に荷担してさえも、レンは悪くないと。

 本当は、根は優しい、いい子であると。私もそう思います。

 「悪」とは、レンを「楽園」に拉致した組織や、人の尊厳を踏みにじる黒幕や、レンを非道い目にあわせた大人達のことを言うのです。

 欲望にまみれた世界の大渦に、為す術無く飲み込まれ、翻弄されてきたレン。

 それでもめげることなく…いや、いつも傷に苛まれながらもめげる様子を見せず懸命に生きるレンを、誰が非難できるでしょうか。


 レンが、本当に自分の思い通りに生きていけるとしたら、これからです。

 エステルによって心を揺さぶられ、結社に戻らなくなったレン。彼女が自分の道を見出して、喜びを感じて生きていけるとしたら。

 もう世界の闇に翻弄されることなく、自分の意志で幸せをつかんでほしい。そう願ってやみません。




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