ファルコムのゲーム・英雄伝説『空の軌跡』シリーズおよび『零の軌跡』のバレを含みますのでご注意ください。

  『零の軌跡』エンディングからしばらく後の「あの新しい家族」の様子を想像した2次創作です。

  既に描いた2次創作マンガ「 Renne in Family 」の小説もどき化ですが、いろいろと変えてある点も多いです。
  ヨシュアも名前と音しか出てこないし、夢レーヴェもカット。あとセリフとか細かい所がいろいろ違います。
  しかしとにかく、あの「3人」のその後の様子を見たい知りたい眺めて目尻さげてにやにやしたい!
  という強すぎる欲求から生まれたことに変わりはありません。
  いやーほんっっとに次回作とかそのまた次回作とか或いはドラマCDとか何かで描いて描いて描きまくってほしい。
  それを待つ間どうにも落ち着かないので、マンガとか文章で自己を沈静化させているのです。      2011.4.7


 







    どうしよう  〜 Renne in Family 〜   < 改 >          作:オーバル魔ペットJoya





 何と言えば、良かったのかしら?
 どんな顔をすれば、良かったのかしら?
 レンは、テーブルに上半身を突っ伏して自問した。

 つい先刻のことであった。
 不意に目の前に元気のいい昆虫が現れた。
 それは捕獲者であるエステルの手と同等の大きさで、雄々しいツノを持っていた。
 ここで「普通の」女の子なら悲鳴をあげて駆け出すのかも知れない。
 と、レンは考えた。
 でも、レンは?
 レンは違うわ。
 こんなモノを目の前に出されて「どのように反応すべきか」考えている時点で、「普通」とは違う。

 そう、自分は「普通の」少女ではない。
 底知れぬ暗闇で、ただの人とは違う何者かに作り替えられてしまった。
 それでも、優しくて暖かい2人…エステルとヨシュアに抱き留められ、深い愛で包まれた。
 だから…精一杯、それに応えた…いや、応えたい。
 この数日、愛情を受け止め、新しい「家」に溶け込もうと、なるべく「普通」に近づくように過ごした。

 …で、この、虫。
 …これはちょっとピンチね。
 こんなに間が空いてから怖がっても、わざとらしいし。
 「かわいいー」なんて言うのも変だし。
 「今日のお夕食?」なんて冗談言うのも何だか当てはまらない気がするわ。
 いいわレンはレンなんだから飽くまでもレンらしく反応するのよ。

 でも、「レンらしく」ってどんなのかしら?
 虫を殲滅しちゃえばいいの?
 …そんなのダメよエステルが悲しむわ。
 それじゃ…せっかく家族にしてもらったのに、また暗闇に戻ろうとするかのように受け止められかねない。
 一体どうすれば。
 …うぅぅ
 もういいわ、レンは冷静なの。そうよ。冷たいのよ…

 「そんなの…近づけないで」

 考え倦ねた挙げ句、出た言葉はそれだった。
 いかにも無関心といった冷たい表情で、目をそらした。
 その時、エステルはどんな顔をしていたか。
 悲しいような?
 ううん、何か怪訝な表情をしていたような…。

 そして、レンを置いてどこかへ行ってしまった。

 きっと間違った反応だったんだわ!
 …どうしよう。嫌われたのかもしれない。
 「やっぱりこんな変な子…冷たい子、家族にしなきゃ良かった」って思ったに違いない!
 どうしよう。どうしよう。
 エステルに嫌われちゃったらヨシュアだってレンを見捨て…いえ…諦める…かも…?

 だめ…レンはダメ。
 やっぱり「家族」になんて、なれない。
 何だって出来る筈だったのに。世界を操作できる筈なのに。
 こんな…こんな事で躓くなんて。どうしたらいいか分からないなんて。
 きっと…きっと、もう、今のうちに、出て行った、ほう、が…

 その時、ちょんちょんとレンの頭に何か細かい物が触れる感触があった。
 レンは顔を上げた。
 目の前で、先程の虫より一回り大きな紫色の蟷螂が小首を傾げた。

 「きゃあああっ!」

 思わず声が出た。
 椅子を倒しつつ跳び退り、どこからともなく大鎌を出して構えてしまった。

 「あははっ大成功!」

 蟷螂を持ったエステルがにこにこ笑っている。
 レンは怒って騒ぐ。

 「エ、エステル!…な、なん、そ、そんなのいきなり、もぉ、ゆ、許さにゃいから!」

 レンにしては珍しく慌てた感じで、舌足らずな響きになってしまった。

 するとエステルはなんだか驚いたような、嬉しいような、レンが愛しくてたまらないような。
 そんな表情になって、蟷螂を外に放り投げた。
 それからいとも簡単に大鎌の間合いを越え、「ごめんね、ごめんね」と言いながらレンを抱きしめた。

 エステルは、頬を紅潮させている少女の小さな頭をなでなでした。
 レンは大鎌をどこかに仕舞い、急に恥ずかしくなって、何かごにょごにょ言い訳をしようとした。
 エステルはそのレンの小さな唇に指をそっとあてた。

 「レン、そういう感じでいいんじゃない。ほら、何も考えなくていいのよ、反応の仕方なんて」

 「…! …え?」

 レンはエステルの顔をまじまじと見た。
 エステルは目を細めて優しくレンを見つめている。

 エステルは、全部分かっていたのだ。

 「人間みんな違うんだからさ。
  こういう時はこうしなくちゃ、なんてルールは無いの!
  レンはレンのままでいいの。本当のレンでいいんだよ…」

 「う…」

 レンはますます赤くなって、俯いてしまった。

 「ほ、ほんとのレンなんて分からないもの」

 ぼそぼそ言った。

 「じゃ一緒に探していこ」

 エステルは変わらない笑顔だ。

 「本当のレンなんて…きっと…予想よりずっと酷い子よ…。
  本当のレンを見つけちゃったら、エステルは後悔するかも……それでも、探すの?」

 上目遣いで聞くレンを、エステルはまた撫でる。

 「後悔なんて有り得ないって! レンは絶ッッッ対、いい子。あたしの全てをかけて断言する!」

 レンは自分からエステルにぎゅっと抱きついた。
 そして言った。

 「…知らないから。どんな事になっても。
  レン…レンは、もう、離れないから。絶対に…」

 (絶対に、出ていってあげないんだから。)

 「絶対に」の後は、エステルの胸に顔をうずめて、声にはならなかった。

 外から静かに、ヨシュアの奏でるハーモニカの音が聞こえてきた。
 レンは顔を上げた。
 それからエステルの手を引いて、外に出た。



 

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