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ファルコムのゲーム・英雄伝説『空の軌跡』シリーズおよび『零の軌跡』のバレを含みますのでご注意ください。 この2次創作は『零の軌跡』エンディング直後を想像したものと言えば、プレイ済みの方はお分かりになると思います。 この話は、もともとは趣味マンガとして描き始めていました(2011年3月末未だ進行中)。 が、途中で「2011軌跡フェスタ」の小説部門に応募したくなったので小説(もどき)の形にしてみました。 ノミネートされるとは思いませんでしたが… その発表は「東日本大震災」の直後で、気持ちがこわばっていたので、その時はうまく受け止めきれませんでした。 が、数日経ってじわじわ嬉しくなりました。ただただレンちゃんが登場する作品を増やしたい一心で提出したものが。 もちろん大好きなレンちゃんに出演していただくんだから、全身全霊で良い文章にしようと努力したことは確かです。 しかしまさか賞の候補に選ばれるとか… 自分の空想妄想で勝手に表現している「レンちゃん」が、あの世界観において認められたということではないか! 勘違いでもいい、そのように理解して悦に入っておきます。 そして調子に乗って、字数制限で削った部分をくっつけ直してホームページに載っけようと考えた次第です。 …しかし、改めて読んでみると、応募した時の短い状態の方が、すっきりまとまっていて良かった感もあります。 まぁ、もともとの形はこうだったということで、置いておきます。 この作業は、自分の心の復興のためでもあります。 震災〜原発事故〜地元福島県の風評被害で心が乱れる中、励ましてくれたり応援してくださってる方々に感謝しつつ。 そしていつでも不敵な微笑みで見守ってくれているレン様に愛を込めて。 2011.3.27 |
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空 の 邂 逅 < 改 > 作:オーバル魔ペットJoya 空には、様々な雲が浮かんでいる。 細く棚引くもの。綿菓子のようにふわふわしたもの。風と睦まじく急ぐもの。 じっと動かぬもの。船の形。大入道。渦巻き。思わず声をあげるほど珍しい形のもの… だがそれらは皆、儚い存在である。 すぐに形を変え、風に散らされ、あるいは大地に降り注ぎ、あるいは霧となり消えていく。 スミレ色の髪の少女が、遊撃士らしい2人の若者と共に、飛行船の座席にいた。 珍しい形の白いドレスに、煌めく黄金の瞳。少女の姿は、人目を惹いた。 少女の名は、レン。 レンは、ふと、飛行船の窓から雲を見た。 雲をのんびり眺めるなんて、いつぶりだったかしら。 …ずっと、走り続けてきた。 雲など、形もよくつかまぬうちに切れ切れに視界から過ぎ去った。 振り返りたい筈も無かった。 振り返ってはいけない。 振り返ると、いつもあの「地獄」から始まるから。 あの場所からは、空なんか見えなかった。 窓を見ても、ただの四角い穴としか感じなかった。 その向こうを、見ていなかった。見ることができなかった。 ただ、うずくまっていた。 歩むどころか、立ち上がることさえ、思いもよらなかった。 少女の周りの世界だけが勝手にぐるぐる回り続けていた。 牙をむき、毒々しく笑いながら。 その底知れぬ暗闇から、少女を抱き上げ、救い出してくれた者たちがいた。 また違う闇の中に、少女は立った。今度は、立ち上がることができた。 その闇をまとい、ひたすら強さを得た。 もう世界などに弄ばれはしない。 世界の牙を叩き折り、逆にあざ笑うほどの力を身につけた。 レンは強い。レンは生きている。レンは世界を自由にできる。 でもちょっと手加減してあげる。 レディとして振る舞えば、褒めてもらえるもの。頭を撫でてもらえるもの。 とても、満足していた。 今のレンに。 レンは何だって好きなようにしていいの。 レンはレンっていうの。 これがレンよ! 前までのレンなんて、レンじゃない。 死神のように、大きな鋼鉄の守護者を駆り、舞い降りた。 「組織」の風に乗り、興奮の中で世界を見下ろした。 夢中だった。 あまりにも夢中で、やっぱり雲なんて見なかった。 …自分が雲だったからかもしれない。 いくら強くなっても、本当は風に流されるまま流されるだけで。 最後には吹き散らされて、バラバラになって消えちゃうような… でも、そのうちに。 不思議な人に出会った。 亜麻色の長い髪の。 元気で、明るくて、めげなくて… そして…そして、こっちがいくらイジワルしても優しくて、あったかい人。 経験したことのないような心の触れ合いに、どうしていいか分からなくなってしまった。 惑乱の中、飛んで逃げた。 今度も、逃げるのに夢中で、雲は見なかった。 ずっと空を走り続けながらも、空を眺めることは無かった。 でも、今は… 「……」 「…レン? 眠くなっちゃった?」 隣に座っているエステルが声をかけてきた。 そう、この人が…元気で、めげなくて、あったかい、あの人。 レンはエステルを見る。ふんわり、優しい笑顔のエステル。 レンはまだ、湧き起こる戸惑いを止められない。 こんなに、優しく包んでもらっても、いいのだろうか? もう普通には生きられない自分を。 あんなに非道いことをこの人達にもしてきた自分を。 しかし、そんな戸惑いを悟られぬよう、何気ない感じで言葉を返す。 「レンは、人前で簡単に眠ったりしないわ。」 「あれ…。でも“影の国”では、眠った状態で登場したよね」 今度は前に座ったヨシュアが話しかけてくる。 黒髪の綺麗なお兄さん。「レンを救い出してくれた」大切な人。 「あ、あれは… だって、突然だったし、いくらレンだって… あ、そ、そうじゃなくて、あれは、わざとよ。わざと。」 寝惚けてつい心の中をさらけ出してしまったことを思い出し、頬を染めるレン。 そんなレンを、ほほえましく見つめるエステルとヨシュア。 クロスベルからリベールへ向けての飛行船に乗ってから、3人の会話は尽きなかった。 だが、どれも他愛ない話題だった。 もっと、何か…伝えたい思い、話しておかなくてはならない何かがある。 レンはそう思った。 だが、いつ、どう切り出せばいいのか分からない。 それに、考えがまとまらず、話し出しても支離滅裂になりそうだ。 つ、着いてから…ゆっくりでいいのかしら。 …でも… 「ゆっくりでいいんだよ」 優しい笑顔のヨシュアが、見透かすような言葉をかけてきた。 レンは驚いてヨシュアを見る。 「レン、ほら…見て」 エステルが窓の外を指さす。 見ると、不思議な形の…うずくまる猫のような小さな雲が、ぽつんと浮かんでいた。 「仔猫みたいでしょ」 「そうね…でもひとりぼっちで寂しそうね」 自分で言って、ハッとする。少し前までの…自分? 強い風に流され、吹き散らされるだけの。 独りぼっちのまま、溶けて無くなってしまう…仔猫。 エステルやヨシュアに「どうやってつかまればいいのか」分からなくて。 考えても考えても、ふわふわ雲みたいにつかみどころがなくて。 いろんな風に吹き荒らされて、めちゃくちゃになって、レンはバラバラで。 「はっきりしたレン」を見つけなくちゃ。 そのために…生まれ故郷クロスベルに行って、確かめることがある。 エステルたちからもクロスベルからも逃げていたら、埒が明かない。 でもイヤだった。怖かった。クロスベルに近づきたくなかった。 それでも、行くしかない。 行って、何もかもはっきり見定めるしかないんだ。 それでレンがもっとめちゃくちゃになっちゃっても。 重いずっしりした岩みたいになっちゃっても。 ふわふわつかみどころのない雲でいるよりは。 …そのほうが、どうすべきか決められる気がしたから。 そうやって、切羽詰まった覚悟で行ったクロスベル。 だから自分を見つけるのに夢中で、ここでも雲を見る暇は無かった… 今、目に映る、その頃の自分の姿。 すぐにも崩れていってしまいそうな、頼りない仔猫の雲。 エステルはレンの手に自分の手をそっと乗せた。 「雲はどこに行くか分からないけど… あたしたちは、家に帰るのよ。 飛んでるけど…自分の足で、歩いてるの」 「……!」 レンは目を大きく開いて、エステルを見つめた。 なんだか、ふいに、とびついていきたくなった。 そうだ。 これからは、歩いていける。 風に流され、飛ばされていくのではなく。 自分の足で、自分の意志で、大地を踏みしめて。 空に浮かぶ、いろいろな雲を眺めながら。 …とびつくのは、ぐっとこらえた。 …まだ早い。きっと、まだ早いわ。 それにこんな人前じゃ、だめ。 リベールに、着いて…他の人、いないとこで、思いっきり… …って、もう…レンったら、何考えてるのかしら… レンの戸惑いの表情は、もう消えていた。 笑顔になった。 「エステルったら、詩人みたいね」 「え、そ、そう? 新しい才能の開花かしら。 …さーて、もうすぐ着くわよ。着いたらまず家に直行! そしてレンの部屋を決めましょ!」 仔猫の雲は遠くなり、見えなくなった。 …さよなら。 でも…レンは覚えているわ。あなたのこと。 レンはエステルの手を握り返した。 それからゆっくり目を閉じた。 |
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